【ボクらの働き方】倉貫義人(株式会社ソニックガーデン代表) × 仲山進也(楽天株式会社 楽天大学学長/仲山考材株式会社 代表取締役/横浜マリノス株式会社 プロ契約社員) × 宇田川元一(埼玉大学准教授)

【ボクらの働き方 第1回】倉貫義人(株式会社ソニックガーデン代表) × 仲山進也(楽天株式会社 楽天大学学長/仲山考材株式会社 代表取締役/横浜マリノス株式会社 プロ契約社員) × 宇田川元一(埼玉大学准教授)

第12回:コントロールを放棄せよ!

仲山

『同質性とコミュニケーション量』の話なんですけど、楽天大学で「売り上げを10倍にする方法を考えよう!」という2泊3日の合宿を20回くらいやるなかで、興味深い経験をしました。最初のうちは参加資格もなく、希望者で集まって盛り上がっていたのですが、やってるうちに段々みんな売り上げが上がってきて、「月商1000万超の人だけで合宿やってみたい!」というリクエストが出たんです。1回やってみましょうかということで、1000万以上の人限定で合宿をやったらすごくコミュニケーション量が減ったんですよ。

倉貫

へー。

宇田川

ほう。

仲山

いつもは、先にもう何百万円とか一千万円売っている上のステージにいる店長さんが、始めたばっかりの人とかに質問されて、「うちはこんなふうにやってるよ」という感じでレクチャーするというコミュニケーションが起こるんです。それを横で聞いた同じく上のステージの人も「なるほど、そんなことやってるんだ。勉強になる!」ということが起こります。でも1000万円以上の人だけにしたら、「うちがやってることなんて他もやってて当然だろうな」と思うせいか、誰も自分からしゃべり出さないという状態になってしまって、コミュニケーション量が極端に減ったんです。だから、あえていろんなステージの人を混ぜる方がいいなと思ったんですよね。ただ、ステージが離れすぎてるとすぐには参考になりにくい。すぐ参考になるのは自分より1ステージ上の話だから、だいたい4段階ぐらいの人が集まると、みんなそれぞれ具体的に役立つヒントを得られることがわかったんです。ちなみに、1番上のステージの人は与えるだけのように思われるかもしれません。でも1、2年経った時に「合宿の時は下だった人たちに抜かれてる」という状態が生まれて、「俺ももう一回、頑張ろう!」と思う、ということも起こりました。「先輩に迫り、追い越す」のが教わった側ができる1番の恩返しじゃないかと思って、そういうチーム設計を。

宇田川

教育学で、発達の最近接領域という考え方があって、ヴィゴツキーという人がもともと言ったものなんですけど。例えば7歳児に15歳の勉強を教えても、難しいとすらわからない。だけど8歳ぐらいの勉強だったら、難しいけどなんとか理解したいって頑張るんです。そこのゾーンがすごく大事ということなのかなと今聞いてて思いました。その頃合いってすごく難しいんですけど、その人がどういう存在なのかを、こっちサイドの都合でなくて相手の立場でちゃんと理解していかないと絶対に見えてこないことですよね。まず「違う」っていう前提にちゃんと立たないと見えない。かつ、その人ごとに抱えてる問題はそれぞれ違うと思うんだけど、その人にとって意味のあるゾーンはどこなのかというのをちゃんと見ないといけないんですね。
そうやって見えてくると自ずとその次が見えてきますよね。でもその「次」をいきなり見ることはできないんですよね。

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仲山

1段飛ばし、2段飛ばしはできないですからね。

宇田川

そうなんですよね。一気に何かを解決するってことは難しくて、やっぱり今何ができるのかということなんでしょうね。

仲山

『アオアシ』の話とつながりますよね。コーチから見えてるところまで引き上げることはできるけど……

宇田川

そうそうそう。

仲山

成長は螺旋階段だから、本人以外の力で1階から2階に引き上げてもダメなんですよね。一周回るプロセスがないと。

倉貫

そうしないとそこからさらに上に行けないので。

仲山

また引っ張りあげないといけなくなっちゃう。

倉貫

階段登ってるうちに筋力がつくんですね。またさらに上に登れるだけの筋力がつくんで、また登れる。
人を育てるのって結構会社の中では大事なことなので、気をつけてやってたんですけど、教育プロセスとか育て方って、均一化できるとちょっと勘違いしてたんですよ。「プログラマの育て方」というのがあると思ってたんだけど、人によって全然違うということが、当たり前といえば当たり前なんだけど、去年ぐらいにようやく気づいて。

仲山

しかも成長速度や伸びるタイミングも人によって違う。

倉貫

そうなんです。僕らの会社の基本理念は「コントロールしない」なんですが、これはコントロールすることを放棄した方が、自然にした方がうまくいくだろうということなんです。それまで売り上げ目標がないだとか、いろんなものをコントロールしない、指示管理ないと言ってたのに、教育とか成長に関してだけコントロールしようとしてたんですよ。そうするとどうしても伸びない人がいる。でもこっちの人はもうぐいぐい伸びる。同じ様に育てても、すごく時間かかる人がいる。これ副社長と話して、「俺らもしかして人の成長速度をコントロールしようとしてたんじゃない?」って気づいて、これ放棄するべきじゃないの?と。でもう早く行く人は早く行くし、ゆっくり成長する人はじっくり育つから、そこのコントロールをやめたんですよね。本人のペースで任せて、時間かかる人はもうしょうがないと。本人にも「そういうもんだよ」って言って。言わないと本人が焦っちゃうので。

宇田川

コントロール型の教育の最たるものがカリキュラムって考え方ですよね。

倉貫

詰込み型でやったらいい、という…。

宇田川

そうそう。事前に誰かが何をどういうタイミングで学ぶかというのを決めるんですよ。ほら、僕らの学校教育の時って、テストやってできないとかできるとかで優越感と劣等感を感じるような。でもあれって、みんなが同じスピードで進む前提じゃないですか。人間の発達スピードは全員同じっていう。やっぱりあれをずっとやってると、洗脳されますよね。

仲山

「教育とはこういうものだ」って。

宇田川

そう。で、「仕事とはこういうものだ」にもなるんじゃないかと思うんですよ。同じ様にできないとか同じ様にしないとかそういうのに対してすごく頭にきてしまう。ほら、学校だと同じ様にしない子をいじめたりするじゃないですか。そういうことって会社でも、いじめまで行かなくても、ちょっと干したりとか、っていうことって出てくるんだろうなと。でも案外違う発達の仕方をするってことが、その集団をよくしたりしますよね。そんなに詳しくないけど、ヨーロッパ、北欧とか、あとオランダの一部でやってる様な教育は、発達のスピードはそれぞれの得意分野が違うから、お互いに助け合うということをやらせたりして。そういうのが本当のあるべき姿なんじゃないかなと思うんですよね。それがコラボレーションだと。今の教育は先生というか、文科省を頭に全部ヒエラルキーになってて。今一生懸命これを改革しようとしてるんでしょうけど、仲山さんのモデルでいうと、こういう教育を受けていたら日本人はフォーミング型になるよねと。

仲山

なりますよね。

倉貫

洗脳されちゃう。

仲山

「自分で考えるようにしなさい!」という、指示命令をしてたりとか(笑)。

宇田川

そう。あと「早くしなさい」もありますよね。速度も決められちゃう。ダブルバインドになってるんですよ。「自主性を発揮しなさい、けれども私の許す範囲で」。

倉貫

「自主性を発揮しなさい!」ってもう言ってるからね。

宇田川

「何それ?」ですよね。

倉貫

ねえ。「イノベーション起こしなさい!」って言ったところで起きるか!という話ですよね。

宇田川

そうそうそう。でも、今それ色々なところでやってますよね。

倉貫

「イノベーション起こそう!」っていう掛け声が1番イノベーション起こさない。

宇田川

ほんとそうなんだけど(笑)。でもツール化していくとそうなっちゃうわけですよね。

倉貫

イノベーションって言葉を使っちゃうとね。

宇田川

そうなんですよ。僕なんかは「なんの研究してるんですか?」って聞かれて、「イ、イノベーティブな組織の研究です」みたいなことを一応答えるんですけど。でもそれは方便で言っているだけで、そこが全然本質じゃないんですよね。そこのもやもやしたところから立ち上がっていくというところを作れるかですよね。

仲山

僕は「チームをつくるために何からやったらいいですか?」と聞かれた時に、はっきり「知らない」と言うか、「模造紙で自己紹介するのがオススメです」って言うんです。講座の最初の合宿ではいつもやるんです。サンプルに自分のことを書いたマインドマップ風のものを貼って、「20分くらいで書きたいことだけ書きたいように書いてください」って。みんなで自己紹介模造紙を壁に貼って、ポストイットの束を持って、お互いのを見て、コメントしたいところにコメントしていく。「リアルフェイスブック」と呼んでるんですけど。

宇田川

あーなるほどね。

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仲山

リアルフェイスブックをやると、1人ずつ自己紹介でしゃべるよりも情報量が多いんです。だからコミュニケーション量が多くなるし、あとは字を書くと、ちょっと怖そうに見える人も「こんな字、書くんだ。いい人っぽい」みたいに思えるんです(笑)。字を書くって自己開示として伝わるものがあるなと思って。しゃべりは、よく見せようとしてしゃべれる人がいるじゃないですか。「あの人あんなシュッとしたしゃべりをするのに、こんなかわいい字を書くんだ!」みたいなことがあるんですよね。なので「自己紹介を模造紙でやったらいんじゃないですか?」と言う。でもそうすると、やったことない人からは「もう、ちゃんと教えてよ。ケチ」とか言われて。僕の最高ノウハウなのに(笑)。
でも本当にそれを会社に持ち帰ってやった人たちが口を揃えて言うには、「もう20年も顔を付き合わせてやってたのに、知らないことがいっぱいあった」と。

倉貫

あーはいはいはい。

宇田川

なるほど。

仲山

自己紹介、いいですよ。

宇田川

自己紹介いいですね。そういえば僕、MBAで非常勤で教えてた時に、経営戦略論という授業を持ってたんですよ。一応経営戦略論のスタンダードな理論を教えていって、その後いかにこれが役に立たないかって話をずっとするんですけど(笑)。こういうことやってるから会社というのはだんだん硬直化していってダメになっていくんですよね!という話をして。そうするとね、受講者の反応が本当に二極化するんですよ。片っぽはすごくディープに反応してくれて、もう10年近く付き合ってる。でももう片っぽの人たちというのが、反応がものすごく薄い。むしろ若干怒り気味なんです。「あいつは正解を言わない!」と。「あいつは答えを言わない、教えなかった」「わからないんじゃないのか」ってね。そういう反応をする人がいて。それたぶん仲山さんと同じ悩みですよね。

仲山

同じですね。僕のことをよく知ってる店長さんが、僕のことを知らない人に紹介する時のお決まりのフレーズが、「この人、何にも教えてくれない人だから」なんです(笑)。そのあと補足があって、「何にも教えてくれないわけじゃないんだけど、答えは教えてくれないんだよ」と紹介してくれます。

宇田川

それは答えが重要なんじゃなくて、答えを考えていく…

倉貫

考えることが大事なんですよね。

宇田川

その過程がすごく大事で、そこを伝えたいですよね、本当に。だって答えがみんな違ったっていいじゃないですか。