【ボクらの働き方】倉貫義人(株式会社ソニックガーデン代表) × 仲山進也(楽天株式会社 楽天大学学長/仲山考材株式会社 代表取締役/横浜マリノス株式会社 プロ契約社員) × 宇田川元一(埼玉大学准教授)

【ボクらの働き方 第1回】倉貫義人(株式会社ソニックガーデン代表) × 仲山進也(楽天株式会社 楽天大学学長/仲山考材株式会社 代表取締役/横浜マリノス株式会社 プロ契約社員) × 宇田川元一(埼玉大学准教授)

第8回:「ルール」と「伝統」が「不自由」を作る

宇田川

今ってすごく不自由になってる気がして。それってどうしたもんかなって悩んでるんですけど。

倉貫

不自由っていうのは?

宇田川

例えばルールがどんどん整ってくると、そこから外れたことができなくなってくるじゃないですか。最初楽天を立ち上げた時とかも、すごく自由だったでしょ?

仲山

何も決まってないですからね(笑)。何かを決めても翌月には合わなくなってるようなことも多かったですし。

宇田川

だけど今、学生って楽天で働きたいと思ってみんなたくさん志望するわけじゃないですか。そこに染まりたいと思ってくるわけですよね。会社も大きくなってくればプロトコルもちゃんと整ってくる。今、日本社会全体がそんな感じになってるんじゃないかなってすごく思うんですよね。そこから新しいものを作るって言ったら外側から作るしかないんだけど、外で作っていくものがちゃんと育っていくのかっていうところもひとつのテーマだし、結局邪魔しちゃったりとか、うまく生かせなかったりとか、そういうところをどう考えたらいいのかなっていうのが、最近の僕の問題意識なんです。

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仲山

社内のルールみたいなところで言うと、ある時、みんなの日報メールを眺めてたら、まだ入社何ヶ月かのメンバーが、「今日はみなさんにご迷惑をかけて申し訳ありません」と謝ってたんですよ。自分は良かれと思ってやったことがその部署のルールとは違ったみたいで、迷惑をかけて怒られたみたいなんですけど。「このやり方はこの部署の伝統的なやり方なので、それが理解できない私の理解力不足でした。申し訳ありません」とか書いてある。でも、その部署の「伝統的なやり方」と書いてあるのって、2年前ぐらいから始まった新しいやり方だったんですよ(笑)。

倉貫

2年の伝統(笑)。

仲山

おそらく2年経つあいだに制度疲労が起こって、新人からすると「なんかおかしいな」と思ったのかなと。でも、その部署は社歴の浅いメンバーばかりだったから、「伝統」みたいな扱いになっていたのでしょうね。ルールって、制定された立法趣旨をちゃんと把握してないと、状況がコロコロ変わっちゃう環境だと弊害が大きいと思います。

倉貫

本質が見失われますよね。表面が残って。

仲山

社内ルールって、そんなものが多いなっていうのはすごく感じます。

倉貫

仲山さんにぜひ聞きたいのが、組織としてそうやってルールができたりそれが伝統になったりって、ほっとくと人間はそういうふうになっちゃうもんなんですか?  みんなルール作ろうとか、伝統にしようとか思ってやってるわけじゃなくて、勝手にできてるような気がして。人間の特性として、集団の特性として、集まったらそうなっちゃうもんなのか、どうなのかって。

宇田川

それがまさにマックス・ウェーバーが問題とした点なんですよ。ウェーバーの有名な『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』という本があるんですけど、プロテスタンティズムの精神から、資本の蓄積が進んでいって、資本主義が育っていきました。でも、1回その制度化が起きてくると、今度は制度を受け継ぐようになってくるんですよ。つまりプロセスが抜けて、形だけが残っていく。最初の方に話したホラクラシーだとかティールだとか、新しい概念っていっぱい出てくるんだけど、「それがどういうプロセス、葛藤の中で生みだされたの?」「なんのためのものなの?」っていう大事なところがスコーンと抜けてくわけですよ。で、みんな形を守ろうとして、どんどん不自由になっていく。これは近代ってものの限界なんですよ。もっと言うと、話し言葉が書き言葉になった人類の抱えてる問題。

倉貫

うーん。

宇田川

例えば音楽だって五線譜ができたからいろんなところに広まるし、グーテンベルクが活版印刷を開発したから、文書が一部の聖職者だけじゃなくて大衆に広まるんだけど、広まるために必要だったもののネガティヴな側面が出てきてしまう。それをどう乗り越えるのかっていうのが、たぶん大事なんですよね。もう1回「これはこういう意味なんだよ」っていうのを語って聞かせるやり方もあるんだけど、限界がある。それならもう1回作るっていうのはどうかなと思ってるんですよ。

倉貫

説明されるよりは作るプロセスをやり直す方が手っ取り早そうですね。

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宇田川

日本って19世紀の半ばくらいに近代化して、ずーっと東京を中心に大企業・大財閥系・東大・中央官庁とかを中心にヒエラルキー作ってそれで効率化してきたじゃないですか。「これが国だ」「これが社会だ」「これが企業だ」ってみんな思ってるんだけど、それはその時必要なものを葛藤の中で勝ち取ってきたものなので、大事なのはその形じゃない。それを作っていくプロセスなんですよ。もっとプロセスを大事にしてくれっていうのはそういう意味で言ってるんです。「どういう正解がありますか?」って僕も学者だから訊かれるんですよ。知らないんだけど!(笑) よっぽど仲山さんとか倉貫さんのが詳しいんだけど、なんかそういうもやもやをずっと感じててね。

倉貫

経営閾値になった瞬間「伝統」になっちゃう。広まりやすいんだけど、残っちゃって変化しづらくなるっていうか。

宇田川

そうなんですよ。

仲山

チームの成長法則でいう「フォーミング・ストーミング・ノーミング」って、ルールの話で言うと、第1ステージのフォーミングが他人のルールで動く「他律」のステージ。ボスの指示命令や、決まった規則で動く。第2ステージのストーミングで試行錯誤を経て成功体験ができていって、第3ステージのノーミングで自分たちのルールができる「自律」のステージになる。ルールの功罪みたいな議論も、第1ステージ的なルールと第3ステージ的なルールとで全然違うんですよね。それを混同すると、話が噛み合わなくなります。前者はボスが組織をコントロールするためのルールで、後者は自分たちが夢中で居続けやすくするためのルールなので。

宇田川

仲山さんの本にも、最後は「1回トランスフォーミングが起きたからってそれで終わりじゃないよ!」って書いてあるじゃないですか。1回それでみんなで自律的に作る。でも形骸化されていく。だったら「これダメだよね」ってとこでもう1回壊す。ここがすごく難しい。

仲山

それこそ「伝統」みたいなものを「自分の代で絶やすわけにはいかない」みたいな、変な文化がありますもんね。

倉貫

ありますねー。

仲山

「何代目」かの人と話していると、「やっぱり会社の目的って存続させることだよね」という言葉が出てくることが多い気がするんですが、創業した人って、「別に俺の代でなくなってもいいんだけどさ」みたいに言いますよね。

倉貫

引き継いだ人が伝統を守りたがるのかな。

仲山

たぶん。

倉貫

最初に作った人はそんなに「伝統」にしたいと思ってない。

仲山

伝統なんてないところから始まってますもんね。