【ボクらの働き方】倉貫義人(株式会社ソニックガーデン代表) × 仲山進也(楽天株式会社 楽天大学学長/仲山考材株式会社 代表取締役/横浜マリノス株式会社 プロ契約社員) × 宇田川元一(埼玉大学准教授)

【ボクらの働き方 第1回】倉貫義人(株式会社ソニックガーデン代表) × 仲山進也(楽天株式会社 楽天大学学長/仲山考材株式会社 代表取締役/横浜マリノス株式会社 プロ契約社員) × 宇田川元一(埼玉大学准教授)

第9回:組織の境界線を緩めて自由なコミュニティに

仲山

会社のサイズが大きいと、チームになりにくいです。重厚長大産業は、大きい工場が必要だから会社を大きくしないといけなかったと思うんですけど、今はそんなに大きな会社が必要ない仕事の方が多くなってる。なのに会社だけどんどん大きくしていこうとすると、なおさらフォーミング状態から進めなくなってしまいます。

宇田川

「成長してるのか膨張してるのか」って誰かが言ってたんだけど。

仲山

それ僕、本に書いたことあります。『あのお店はなぜ消耗戦から抜け出せたのか』という本。

宇田川

本当ですか? 会社として、組織として成長するっていうのがどういうことかってことなんだろうと思うんですよね。
例えばソニックガーデンとか、他のとこでも「こんな面白い会社があるんですよ」と話題に出すと、「それは小さいからできるんですよ」って言われるんですよ。で、「うちの会社はどうやって変えたらいいのか、何からやったらいいんですか?」って。

仲山

「小さくしてください」(笑)。

倉貫

僕も言おうと思った(笑)。まず小さくしよう!

仲山

「バーチャルでもいいから小さくしてみようよ」って言えばいいですよね。

倉貫

大きいままで、大きい状態をそのまま変えるって難しいですよね。

仲山

難しいです。喋ったことない人が1人でもいたら、心理的安全性がいつまで経っても確立しないですもんね。しかも評価してくれる上司が、「このプロジェクトは俺が責任持つから」と言ってくれればいいけど、その上の人がまたそれを評価するみたいになったらもう、ね。直属のボスがいいと言ってもダメな場合もあるなんて、心理的安全性がなさすぎて、もう何もできなくなりますよね。

宇田川

でもそこが直属の上司の頑張りどころですよね。

倉貫

うちも今チームで28人いて、その28人は知らない人がいない状態でやっていけるけど、この先どうしていくのがいいかなって思ってるんです。
僕らの会社は売り上げ目標を立てないから、人を採用するKPIもないんですね。いい人がいなければ入れない。逆に言うと「いい人がいたら入ってもらえばいいや」っていう発想なので、採用はものすごく厳しくしてるんだけど、乗り越えてきちゃう人がいるんですよ。

仲山

現れてしまうんですね、人材が。

倉貫

そう。きちゃった!みたいな(笑)。そうするともうお断りできない。そうやって徐々に増えてきたので、この先も同じ感じで、KPIにはしないけど、ほっといたら増えて…辞めないので人数は増えますよね。これをどうやって維持するのか?バーチャルに部門を分けるとしてもどう分ければいいのか。分けて社員たちは違和感を感じないのか。

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仲山

僕がその辺で思うのは、チームって、プロジェクト単位で第1段階から進んでいって、そのプロジェクトが終わったら解散をする。だけど、ストーミングを超えて「俺たちチームだよね」となった人たちが解散をすると、心理的なつながり、信頼関係が残って、コミュニティができる感じがあるんです。「またなんかあったら一緒にやろう」と。会社って、この箱の中に「同じ価値観で働ける」、言い換えると「ストーミングを超えやすい」人たちがたくさんプールされてる場所、と捉えるのがいいかなと。濃いコミュニティみたいな感じですね。何かプロジェクトを思いついた人が「こんなことをやりたい人、この指とまれ」って募集をかける対象となる人材がたくさん集まってる場所。世の中の他のところで募集してもなかなかいい人が集まらないけど、会社内からなら集めやすい。
だから釣り堀じゃないですけど、一緒に遊べる人がたくさんいるコミュニティ、みたいに捉えて、仕事はプロジェクト単位で考えるのがいいのかなって。

宇田川

絶対そうです。

倉貫

じゃあそのコミュニティが100人ぐらいになったとしたら、やっぱり知らない人が出てくるけど、それはまあいいってことですよね。その中にチームがあり、プロジェクトがあって、プロジェクトの中にはもちろん知らない人がいたら仕事しづらいんだけど…。

仲山

そうそう。そうすると、プロジェクトで出会って「仲間」になりました、みたいな関係が社内にいっぱいできる。

倉貫

そのコミュニティの外側っていうのはやっぱりあるし、コミュニティの中にプロジェクトはあるし。
確かにその感覚は最近僕も持っていて、昔10人ぐらいだった時には、チーム=会社の感覚でやってきたんですけど、徐々に増えて、今はもうこれをワンチームというにはちょっと…。

仲山

重要な感覚ですね。

倉貫

ワンチームであらねばいけないのかっていうところが、たぶん僕がブレイクしなければならないところなんです。逆説的に言うと、「社員同士は全員知ってないといけない」みたいな風潮がやっぱりあるんですよ。とはいえコミュニティだから、そこは知らない人がいてもいいんじゃないかと。でも、普段毎日一緒に仕事する人たちの中に知らない人がいたらいけないので、そこは強固にやるんだけど、もうちょっとゆるいところもあっていいっていう風に最近思い始めて。実験的に採用を2段階に分けたんです。

宇田川

正社員の前にひとつ段階を置いたってことですか?

倉貫

そんな感じです。うちの会社は採用自体をすごく厳しくしていて、「ソニックガーデンに入る!」「社員としてホームページに載る!」って言ったらもうめちゃめちゃ厳しい。でもグレーゾーンを作ろうかなと思ったんです。今28人の人がいるソニックガーデンとしての世界の外側に、一緒に働いてもいい人、という領域を作ろうと思って。でもそこには社員としての採用ほどではなくともそれなりに厳しい入国審査があって、それを通り抜けてもらうんですけど、ホームページには載らないし、名刺も持つわけじゃない。でも中の人たちと一緒に仕事する。例えば何か新しい案件をこなす時に、そのグレーゾーンにいるデザイナーさんと組んだりとか。

仲山

案件によって手を貸してくれるいろんな職種や強みを持ったパートナーがいる形ですね。

倉貫

ソニックガーデンは職種としてはあえてプログラマしかいない会社にしてるんですよ。その方がカルチャーが強固になるし、みんなの気持ちも合うし、キャリアパスもシンプルだから。でも仕事していく上で、デザイナーさんがいたり、ライターさんがいたり、我々の周辺にね。その人たちもある意味会社みたいなもので、コミュニティに入ってもらってやっていくんです。しかも僕らの会社、基本的に給与一緒で、固定給だし、ベーシックインカムなので、ま、国みたいなもんだなと。国とか町みたいなもんじゃないのかなって、会社って。

仲山

「国外」の人たちとチーム組んでもいいですよね。

倉貫

そうそう。この入国審査過ぎればもうオッケーで、バーチャルの国みたいな。でちゃんと自分で稼ぐ分だけ稼げば、税金さえ納めればいろんな権利を得られるっていう状態になってる。もうこれもはや会社なのかなんなのかよくわからない(笑)。

仲山

「会社とは何か」ってところにいきますね。問いとしては。
僕は昨年、日本大学で半期の授業をやったんですけど、僕と事務局は楽天の社員で、あと楽天出店者さんたち何人かとチームを作ったんです。言ってみれば会社が違う人ばっかりがチームとしてやってる。しかも楽天の立場からしたら「お客さん」である出店者さんが同じチームのメンバーなわけです。もはや「会社ってなんだろう?」とか「お客さんってなんだろう?」という感じです(笑)。

宇田川

近代の社会の中でできてきた、「組織=企業」という考え方が、だいぶ変わってきてるんだよなってことですね。企業だったらみんな組織になってるのかという問題って結構あると思うんですよ。そのコラボできてない会社なんていっぱいあるじゃないですか。

仲山

ありますね。

宇田川

そういう風に考えると、ちゃんと協働するものであればそれは組織なんじゃないのかって思うんですけどね。
今までの企業のあり方、組織のあり方って、あくまでもひとつの在り方だったんだと思うんですよ。でも別にそれ以外のやり方もある。もっとコミュニティ型になっていくようなのが。だって、インターネットってそもそもそういう世界じゃないですか。その方が全然レジリエンスが高いわけで。
新しい組織のあり方って、今までの区切り方と違う境界線というか、もうちょっとゆるい境界線で構成されるコミュニティっていう風に思います。本来上とか下とかっていうのも別にそんな大事な問題ではなかったし、内と外っていうのもそんなに重要な問題ではなかったと思うんですよね。だって創業の時って必死になんとかするから、別にそういうことってそんなに重要じゃないじゃないですか。

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倉貫

生きてるだけで精一杯ですよ(笑)。

宇田川

ですよね。出来上がってくると上下や内外の境界がはっきりした感じになっていって、出来上がったストーリーで変わっていっちゃう。本質は出来上がった形の話じゃなくて、どうやって協働してつくっていくかってことなのかなって僕は思ってるんですよね。

仲山

チームになるためには、パズルのピースのサイズが揃ってないとうまく組み合わさりにくいと僕は思ってるんです。「7人の侍」とか「ガンバの大冒険」とか「ワンピース」もそうですけど、パズルのピースのサイズ感が揃ってる。それで、得意不得意が違うから、それぞれのシーンで「ここは俺が!」と強みによって出番があって、みたいな。逆にいうと、ヒエラルキーってチームになりにくい面があります。

倉貫

なりにくいですね。均質化しようとするんで。

宇田川

あれね、もともとはね、アメリカが急速に近代化して、社会が大きくなっていく。その時に移民労働者が増えるじゃないですか。でも移民労働者ってなんのスキルもないし、言葉が通じないんですよね。だから現場の偉い人が牛耳ってて、しかもこの人気分によって働いたり働かなかったりする。でも急速に発展していくのに全然生産が追いつかないみたいなそういう状況の中で、それぞれ違うけど、人がそれで抜けたりとか死んだりとか怪我したりとかしても、一応組織として続くように、人の互換性を作るためのものなんですよね。そのためにマニュアルを作って、あの時代に「研修」って初めて生まれたんですよ。

倉貫

ほう。

宇田川

要は「それぞれ違うけど、ここの部分だけ揃えます」ってしなきゃいけない時代だったからそうしてたんであって。テイラーって人がそれを考えたんですけど、テイラー今の時代に生きてたら、同じような事言うかなっていうと、違うんじゃないかなって僕は思いますけどね。

仲山

「そんなヒエラルキー組織だったら効率悪いだろ」とか言ってるかも?!

宇田川

そうそう。

仲山

「ネットワーク型の組織…ナイス!」って(笑)。

宇田川

かもしれない(笑)。

仲山

テイラーさんが「効率が悪いのが嫌い」という人だったらそういう可能性ありますよね。当時の「人が入れ替わっても大丈夫」という発想は、中期的な効率を視野に入れているアイデアですもんね。こうやって取り替えが効くようにすればいいんだよ、という。

宇田川

だからチームと組織っていうのが、たぶん現状では違うんだけど、チーム「が」組織になっていくんじゃないかなと思いますけどね。

仲山

生産性の高いチームワークで仕事を成し遂げる「チーム」ができて、そのようなチームが再生産されやすい環境としての「組織」になっていく、という意味ですね。同感です。