【ボクらの働き方】倉貫義人(株式会社ソニックガーデン代表) × 田原真人(Zoom革命代表) × 武井浩三(ダイヤモンドメディア株式会社代表取締役)

【ボクらの働き方 第2回】倉貫義人(株式会社ソニックガーデン代表) × 田原真人(Zoom革命代表) × 武井浩三(ダイヤモンドメディア株式会社代表取締役)

仕事とお金は切り離して考える。

倉貫

僕らの会社も、給料やボーナスを社長の一存で決めてるわけじゃないから、全然社長が偉くないんですよね。本来社長というのは「お金を渡してやるから働け」というヒエラルキーで人をコントロールできるんだけど、僕らは面倒臭いからやりたくないんですよね。

武井

そうですよね。人事権って最強の権力ですよね。

倉貫

そう。会社にとって最強の権力なんで、みんな怖くて「一生懸命働こうか」ってなるし、そうすると、人事権持ってる人見て仕事するようになるんですよね。それは人がやるサービスの会社の中では、よくないですね。「お客さんを見ろよ」って話なので。

武井

いやもうその通りですね。

田原

ロジックを組んでしまって、そのロジックでやってるというのがクリアになっていれば、そこに人が入ってくる余地がなくなるから透明化されて、そこを気にしないで本来力を入れるところにみんなが力を入れられるようになるという話ですね、今の話は。

倉貫

そうです。その代わり従来の会社でいうところの「偉い人」が偉くなくなるので、人事権握ってのお山の大将的な気持ち良さはもう持てない。

武井

ないですね。

倉貫

それを僕らはもう諦めてますよね。別に求めてないというか(笑)。

武井

あと歩合制も入れてないですからね。

倉貫

うんうんうん。

武井

やっぱり仕事の細かい単位にお金を付けちゃうと、

倉貫

わかるわかる。

武井

だから「しょうがねえな」みたいな。

倉貫

そうそうそう。

武井

それで僕は坐禅に行き着いたんですよ。

倉貫

よくないね。

武井

ダニエル・ピンクの本でありましたけど、ボランティアでやったとしても報酬をあとでもらっちゃうと、お金のために仕事しはじめちゃう。

倉貫

そう、やらなくなっちゃうんで。

武井

なのでやっぱり仕事とお金の関係性を切り離さないといけないっていうのは、結構緻密に試しながら設計します。

田原

なるほどねえ。

武井

それとやっぱり人間の意識が「いい仕事する」にしか向かなくなるんですよね。

倉貫

そう。それでお金のことにしなくて済むのでいいんですよね。自分の出世のためだとか、上司に気に入られるだとか、給料上げるためにもっと頑張る!とかよりも、「目の前の仕事頑張ろう」ってなるので。

武井

いやもうそれしかないですからね。

倉貫

そう。それしかないし、社長の顔色伺うよりもお客さんに満足してもらった方がいいので、お客さんとしても嬉しい。

武井

そうですよね。全部の利害関係が一致するというか。

倉貫

そうそう。今までは外発的動機がないと人は働かないと思われてたんだけど、実はそんなことなくて、本人が好きで楽しい仕事だったら、ほっといてもやるんです。その時に、わざわざそれをコントロールしようとせずに、「お金のことは気にしないでいいよ」って言うためにうちの会社はベーシックインカムなんです。ベーシックインカムの実験してるみたいな(笑)。

執着を手放して客観視すると、物事は良い方向へ転がる。

田原

さっき武井さんが「坐禅に行き着いた」って言ってたじゃないですか。それは権力を手放して、ロジック組んで、社長が特に偉くないって状況になって、そこから坐禅には、どういう流れで行き着いたんですか?

武井

さっき倉貫さんがおっしゃってたみたいに、事業の成長をコントロールしないので、ほっとくしかないんです。でも早く結果が欲しかったんですよね。それに周りに同世代の起業家がいて、彼らはどれだけメディアに取り上げられるかとか、どこどこから何億調達しました!みたいな、そういう「できる感」を出した方が勝ち、みたいな…

倉貫

わかるわかる。かっこいいもんね、その方が。

武井

意図せず壮大なマウンティングをし合ってるんですよね。その中で僕は、会社の仕組みはホラクラシー的なものをずっと作りながらも、一個人として、頭の中で描いたものがすぐ欲しくなっちゃう。それで現場のみんなに「これどうにか早くできないのか」とかプレッシャーかけて、それがまた空回りを産んで、どんどんよくない方向に行って、その葛藤をどうしたもんかと。その結果、坐禅とか瞑想に…たまたまそういう方と知り合ってですね、体験会に行ってみたら、「なんかこれ救われる気がする」と思って。そこから事業での成長も手放しはじめて、すごく気が楽になって。また面白いことに、手放すとゆっくりですけど求めていた方かそれ以上の方に進んでいくんですよね。最初はアクセルをグーンと踏まないので、ゆっくり転がっていくんですけど、この転がりがだんだん早くなってきてる感覚もあるので、「こういうもんかな」と(笑)。

倉貫

ギャップを感じますよね、最初のやりたいことと結果できたことの。それすごいわかります。僕が社内ベンチャーを前の会社で任された時は、3年の執行猶予と「3年で何億」のバジェットをもらって、売り上げ目標建てられて、それを達成するというコントロールの塊みたいな状態でやらされたんで。そうするとこっちも「なんとか目標達成しなきゃ!」みたいになって、でもなかなか芽が出ないと怒っちゃうんですよね。

一同

(笑)

倉貫

「お前ちょっと根性足りないんじゃないか」みたいなことを言っちゃうんです。今でこそわかるんですけど、商売って相手があってのことなんで、自分たちがどれだけ一生懸命売ろうとしても、お客さんがいなかったら売れないし広がらない。要は事業も商売もコントロールしようとしてもできないんですね。

武井

そうですよね。

倉貫

プロダクトはまだ頑張って鞭振ったら、品質の良い、バグのないものを作れるかもしれないけど、それが実際売れるようにコントロールできるんだったら、誰もが簡単に計画を達成することができるはずで。その状況状況で波を見なきゃいけないんだというのは今でこそわかるんですけど、当時はわからなかったんで、ゴリゴリにやって、辞めていくメンバーも出て、すごく反省したんですよね。で、1年頑張ってみたけどどう考えても達成できないし、人もみんな疲弊してるし、もうやめよう!諦めよう!3年分会社からお金をもらってるから、残りの2年遊んでやろうと思って開き直って(笑)。そうやって開き直ってからはあんまり難しいこともきついことも言わなくなって、ゆるくやって逆に達成したんです。

田原

達成したんですか(笑)。

倉貫

そう。あの(ゴリゴリな)やり方はなんだったんだと。初速はゆっくりでも、回ってるとスピードが出てくるんですよね。僕はロードバイクに乗るんですけど、ロードバイクって最初はスピードが出ないんですけど、ずっと走ってるとすごく速くなるんです。でもいきなり最初から30キロとかは出ない。何キロか走ってないとそのスピードには達しないんです。

田原

そうですね。僕ももう半年以上瞑想をやってるんですけど、心が反応するのがわかるようになるんです。それは自分が「こうしたい」って思うものだったり、人から言われることだったりするんですけど、その反応がわかるようになった瞬間から自分の心と距離が取れて、「自分は何に反応してるのかな」というのを客観的に見に行けるようになったんですよ。そうすると自分が怒っている源がだんだんわかってくる。1番大きく気がついたのは、社会の理不尽さに対しての怒りですね。ものすごい怒ってたんですよ、数年間(笑)。それまで自分はもっと淡々と生きているイメージだったんですけど、実はすごく情熱的な部分がある人間なんだと、その怒りを通して認識できたんです。そうしたらその怒りのエネルギーをどう使えばいいのかなと考えられるようになって。怒ってるという状態の中に埋没してる時は全然考えられなかったんですけど。それが自分にとっては瞑想をやってて大きな成果だったなと思っています。

武井

なるほどなるほど。

倉貫

みんな瞑想してますね。

一同

(笑)

武井

その、もう1人の自分が自分を客観視するみたいなことって、心理学的にも研究されてますよね。北野武さんの本にそういうことが書いてあったんですよ。「どこかに冷めた自分がいて、もう1人の自分を見てる。だからどこでのたれ死んでもいいと思ってる」というような。そういう感覚がもろに書かれていて、すごいなと。だから執着がないというか、人生が整っていくんでしょうね。

田原

自分の周りの人に感情の爆発が起こったとして、自分もそれに巻き込まれちゃうとわからなくなっちゃうんですよね。さっき言ったみたいな感じでちょっと離れられると、「ここに情熱があって、こうなってるからここですごい反応が起こってるんだ」ということが見える。自分自身に感情の爆発が起こってる時も、離れて見られると、それに対して自分はこういうところが燃えて反応が起こってるんだ、みたいなことが認知できるんですよね。その洞察を出していくと、対立構造になっている人ともちゃんと繋がれるようになっていくんです。人同士が繋がっていく時に、絶対そういうフェーズがでてくるんですよ。自分の感情が反応しないで距離を取れる時は、この場のプロセスに対して洞察が出せるようになっていて、そこに悪者を作らないで存在を組み合わせられる。そういう気づきができてくるので、「あ、やっぱ瞑想しよう」と(笑)。

倉貫

客観的に見るために瞑想してるって感じなんですかね。

田原

ええ、反応に巻き込まれないようになるのがすごいですね。

武井

僕の好きな禅語に「只管打坐」っていう言葉があって、ただ座るって意味なんですけど、目的を持たなくていい。坐禅をするために坐禅をする。それがすごく衝撃的で。以前はなんでもかんでも問題解決したくてしょうがなかったんです。そういう思考回路でいくと、今度はどんどん問題を作り始めちゃうんですよね。「何が問題か」が先行する。なんでもかんでも問題にして、その問題を解決するために自分がいて。僕が最初に坐禅をした頃も、どうやったら自分の求めてる目標を達成できるか、その答えが欲しくて坐禅をしてたんですよ。

田原&倉貫

うんうん(笑)。

武井

坐禅は目的じゃない、坐禅がソリューションじゃないからって言われたんです。僕の会社の顧問が僧侶なんですけども、彼から「只管打坐」という言葉をあるタイミングでもらって、そこからすごく気が楽になりました。ただただ座る、でもそうしたらさっき田原さんがおっしゃったみたいに、自分のもやもやが見えてきたような気がして。それを解決はしなくてよくて、「今俺すごいムカついてるな」とか「今すごい焦ってるな」とか、ただそれを捉えて見てたんですよ。

倉貫

うんうんうん。

武井

そうしたらなんか整っていったんですよね。問題が消えたり、今までだったら起こっていたような軋轢が起こらなくなったり、それが僕だけの中じゃなくて、会社の中とか、周りでも起き始めて。そこから会社の経営がすごく楽になったんです。それまではもともとワーカホリックで何時間でも働けたんですけど、そこから比べると今って1/3も働いてないんです。でも会社はどんどん伸びていってるんですよね。新しい事業が生まれて、クリエイティブなビジネスモデルが生まれて、しかも労働は1/3。

田原&倉貫

うーん。

武井

なんだこれ、みたいな(笑)。本当にこの2、3年なんですけど。

アジェンダのない会議の大切さ

倉貫

問題解決をしないような発想という話ですけど、僕らの会社ではたまにオフサイトミーティングっていうのをやっています。現場から離れてただ話し合いをする、というものなんですけど。普通の会議だと会議の結果を出さなきゃいけないし、ディシジョンするための会議をしているところがあるんですけど、オフサイトミーティングでは、結論を出さなくていいんです。あるがまま、その場にみんなでいて話をするだけ。そういうゴールを決めない会議をやってると、それまで仕事の中では出なかったような話がみんなから出るし、普段会議の場では喋れなかったことが出てきたりするんです。誰が司会進行するでもなく、まあお酒がない飲み会みたいなもんですね(笑)。気軽に真面目な話をするっていう場を作ると、組織の中ではその時間がよかったのかなって、さっきの話聞いてて思いましたね。

武井

そうですよね。アジェンダのない会議大事ですよね。

倉貫

そうそうそう。

武井

うちの会社、すべての会議でアジェンダ作らないんですよ。

倉貫

へえ。

武井

そういう定点観測とか、定量的な確認とか、必要に応じてもちろんしますけど、確認して「はいおっけー」で終わっちゃうじゃないですか。「今みんなどんな感じなのか」というのは、雑談のようなコミニュケーションの中でしか表面化しない。だから雑談すごく大事にしてますね、うちの会社は。

田原

デヴィット・ボームという人が『ダイアログ』という本を書いてるんです。その中で「目標を定めちゃいけない。唯一あるとしたら、コヒーレントのコミニュケーションだけを目標にするんだ」と言ってるんです。で、「ダイアログ」というのは何かと言うと、「集団の思考プロセスに個人が入り込んで、集団の思考プロセスに変化を与えること」だと。それ、すごいよくわかるなと。今日もそうですけど、僕は何も決めないダイアログ的な会話を毎週毎週たくさんやってるんですけど、それをやってると、決めないことに対する不安がなくなるんですよね。みんなが並行して動いてるけど、それを自分が左脳でしっかり把握してなくても大丈夫、むしろその方がうまくいくということが体感覚でわかるんです。で、みんなの波長が揃ってるなあ、みたいなことをダイアログの中で感じられて、「今揃ってるからこんな感じでいけそう」みたいなのを確認できる時間になる気がしてるんですけどね。だからそれがアジェンダのない会議とかオフサイトミーティングみたいなものとかで、起こってるんだなと思います。

武井

なるほど。

倉貫

それがただのグダグダなミーティングになってるのかなってないのか整理がついていなくて、もうちょっと分析できそうな気がしてるんですけど、生産的な雑談が存在すると思っています。非生産的な雑談ももちろんあって、会社の中がいい状態になっている時は、生産的な雑談がうまくいってる感じがするなあ。

武井

少しフレームワーク的に捉えると、会議を大きく3つに分けて捉えていて、1つは情報を共有するための会議、それから意思決定だったり、承認を得るための会議、それからみんなで意見を出し合う発散のための会議。ただ、多分うちとかソニックガーデンさんみたいに、オープンな会社にしちゃうと情報の格差がそもそもないんで、共有の会議が必要ないんですよね。

倉貫

あ、ないない。

武井

で、意思決定者がいないんで、意思決定とか承認の会議もないんですよ。

倉貫

うん、ない。

武井

うちの会社に残ってるのって発散の会議だけなんですよ。つまり会議の時間がまず1/3なんですね。それでよくやるのがブレスト会議ですね。これは懇意にしている『面白法人カヤック』さんがやってるブレスト会議を、研究して、エッセンス持ち寄ってパクってきたんですけど(笑)。まさにプロセスに関与して影響を与えるっておっしゃってたじゃないですか。ブレストってそれをシステマティックにする素晴らしいフレームワークです。「とにかく数を出す」「周りの意見に乗っかって意見を膨らませていく」「全員が発言する」っていう3つのガイドラインがあるんですけど、この3つを守るために、『ファシリテーター』を必ずグループに1人作って、5分とか10分とかワントピックをみんなでワーワー話し合うと、そのプロジェクトに入ってない人でも、プロセスに関与するんで、当事者意識がすごい高まるんですよね。当事者であることとは何かというと、「プロセスに関与すること」なんです。プロセスに関与すると、結果が自分が思ってたのと違うことになってもそれを握れるんですよね。それをずっといろんなところでうちの会社が今繰り返してて、結構ブレストの会議を設計してるので、やっぱり会社全体の物事がすごい自分事化していくんですよね。これ顕著なんですけど、自分事化すると実行力が勝手に高まるんです。そうするとマネジメントが必要なくなるという好循環が生まれていく。

倉貫

いや、いいですね。よく「当事者意識持て」って言うけど、まず当事者にしろよって話なんですよね。

一同

(笑)

倉貫

「この会議には君は出なくていいよ」って言いながら、「当事者意識を持て」って言っても持てない。当事者になってもらうっていうのはいいですよね。

武井

そうですよね。会議とかその場の設計は、チャットワークとかスラックとかを使ってオンライン上に作っているんですけども、アナログの良さもあると思っています。アナログの方が雑談が生まれやすいので。